若旦那が殺られちまった。



それに気付いた…最初に見つけたのはわっちの下っ端の下っ端の女。
人がいいから誤解されがちなんだがわっちにしてみればこいつは殺ってないという確信があったね。
よくあるじゃないか。
第一発見者による犯行というものが。
けどそいつは違ったね。わっちの中でそう勝手に思っていただけかもしれねぇが確かな確信があったのさ。


それにしてもなんで若旦那が…


若旦那はうちの店に1番顔を出すお方だった。どこぞやの越後谷かなんかの息子だとかで一度、大旦那と来たっきり、それからはよく一人で顔を出すようになったもんだ。

よっぽど会いたかったのかね、あの子に。

わっちが言うあの子というのがさっき言った、わっちの下っ端の下っ端という女で、よく相手をしてやってたみたいだ。


相手をしてやってたっつってもわっちの店は性行為そのものは無し。酒を交えるだけの…悪く言や、商人(あきんと)の酒場のようなもんだった。


けどな、わっちが、犯行現場にあたる個室の一つのふすまを開けるとそこには交えていたであろう杯と、位置が変わった大層立派な机が乱暴に置かれていた。



さらには緑が綺麗な畳の上には白濁色をした男の精液がてんてんと。

さらにその白濁色の近くには赤く生々しい血液がてんてんと。



(嗚呼、なんということであろうかいな)



冒頭で述べた通り、わっちには確かな確信があった。確かにそうなんだけれどもな…

わっちが部屋の入口付近に佇み男の精液と男の血液で汚れた畳を眺めていると、長い廊下の向こうからチリン、と高級な簪(かんざし)の音がしてその音はわっちが佇む部屋の前で止まった。
それが誰なのかは分かっていた。



「おまえかい?千種」

声をかければ、

「そうでありんす。千種でござんまし。何故かこの部屋に、呼ばれているような気遅れがしたものでんな」

それは、わっちが昔から聞いて来たわっちの下っ端の下っ端の女の透き通った声だった。


「おまえさん、若旦那が死ぬ前にこの部屋でお相手してたらしいやないか」

「ええ、正に」



千種は若旦那が死ぬ直前、若旦那の相手をしていた。この部屋で。この部屋に残っていた精液を見る限り…無理矢理紐解かれたんだろう。そして殺った。つつじまは大いに通る。
いや、でもまさかな、千種、おまえさんは違うだろう?



後ろを振り向くと目に入ったのは千種の頬に付いた赤い色。

それが何かがわっちの中でわかった瞬間、わっちは口を開いていた。




「メロウ…メロウ!!!!

さては、おまえが…」




すると千種は目をまんまるくしてこう言ったんだよ。



「わっち以外に、誰がやるっていうんだい」





メロウ、メロウ






※女朗(メロウ)…女性の呼び方。野朗からの類推で作られた語。

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