――瓦の上に烏が一羽、嗚呼、不吉やな、さあ逃げろ



欠伸を一つ。そしてふと目に入ったどんより重たい鉛の空。一瞬にして俺を支配した。時に冬だってのにこの瓦の上だ。寒い。


(暇だな)


頼まれていた御用とやらは昨日済ませてしまった。今回のはかなり簡単だったような気がする。俺も上から頼まれた用は断れないが、それでもあまり簡単な用は承りたくないというのが本音。だって考えてもみろよ。「あいつはどんな簡単な用でも金さえあれば動く嫌な奴だ」って思われてたら気分よくねぇだろ?自意識過剰か…否か…まあどっちでもいい。

今回上から頼まれた用てのが、上総の領主の「偵察」だった。しかし要は、後で自分が殺すことになるんだがな。いや、本当に忍ってのは辛い。


そしてついさっき、上総からの偵察の帰り道、たまたま寄った有名な茶屋に懐かしい顔があった。俺は迷わず声をかけたね。

「善蔵か?久しく見てなかったが…こんなところで何やってんだい?」

善蔵は相変わらずだった。俺と同じで偵察に来ているのか、見た目はそこらの一般人と変わらないがやはり分かるもんは分かる。殺気が隠しきれていない。まったく。

「見ての通り、だ。跡をつけてる。邪魔をするな」

冷たく言い放たれ、善蔵が見つめる先を見る。そこにいたのは同じ上総のお偉いさんがいた。

「殺るのか?」
「ああ」

へぇ、と一言言って善蔵を見る。それにしても…本当に懐かしい。意外と近くで行動してたんだな、と感動する。


「今、誰に仕えてる」


善蔵は今だあの男から目を離す事なく俺にそう問った。


「甲斐だよ、甲斐。虎に仕えてる」
「虎…か…そうか」


意味ありげに善蔵は笑った。


「なんだよ」
「…いや、近々おまえとお手合わせするようだな、と」
「どういうことだ?」


俺が聞くと、「それは言えない。あくまでも敵だからな」と軽く流され、そして善蔵は立ち上がった。どうしたかと思って前を見たら善蔵が就けていた男が茶屋を出ようとしていた。


「では、また会おう」


善蔵はそこで初めて俺を見た。




ふう、と一息ついて瓦からもう一度、頭上に広がる曇天を見た。相変わらず変わりもせず重たい雲が広がっていた。

(善蔵が敵、か…)

俺はすくと立ち上がり足早に昨日の偵察の報告をするために虎のもとへと向かった。善蔵のことも言うべきか迷ったが言わないことにした。


少なくとも俺は、善蔵が攻めてくるそのときを楽しみに待つことにするよ。





忍はさすらふ

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