「殺すのか?」
「あァ、殺すさ」

其れは一つの信念を貫く男の目をしていた。

右目は燃えるような紅、左目は大海原を思わせる蒼。生を受けたときからその色は変わることなくただ周囲を見渡し続けていたに違いなかった。その目で何を見てきたのか、其れは聞くまでもなく分かっていた。きっととてつもなく恐ろしくおぞましい物を捕らえてきたのだろう。ただ今の男はそんなものを見てきたのとは対照的に、ただ無情。表情がなかった。恐れがなかった。目に捕らえているのは紛れもなく自分。紅と蒼の瞳に映る自分はひどく歪んでいた。

しかし其れもまた一つの信念を貫く男の姿をしていた。

刀をこの手に握ったのは6歳の頃。その頃は幕府もまだ安泰に陥っていた頃で比較的に平和な世の中だったと言える。そんな中初めて人を殺した。殺した感触というのは毎回同じで、血しぶきとともに殺した人間の感情がそこら一帯に溢れ出て自分を蝕んでいった。絡みつく感情を振り払うのにかなりの時間がかかることもあった。だが其れも時が過ぎれば無くなる。無くなった後は実に軽かった。ふわふわと足が浮く、あの感じだ。

「フン・・・何を考えているんだ」

男は口端を上げいやらしく笑い、その紅と蒼の目で自分を捕らえた。考えようによっては最後の忠告だったのかもしれない。男の銀色の髪が幾分が低い所にある月に透かされていた。不覚にも、綺麗だと思った。

「今更何を考えても一緒だろうが・・・なァ?」

男は一歩自分に近づき腰にある刀に手をかけた。チャキン、と刃が鳴る音がした。もうすぐその刀で殺されるんだ、まさか自分の血を見ることになるとは・・・どうだろう俺の感情は蝕むのだろうか。蝕んで蝕んでコイツを苦しめる事はできるのだろうか。

「ハハ、お前の髪、すげェ綺麗だなァ。殺すのもったいねェなァ。」

男はまた1歩近づき、俺の髪に触れた。男の銀色の髪とよく似た、あるいは同じ類の銀色の髪。同じように月に透けているのだろう。

勿論、今この男を俺の刀で殺す事だってできた。簡単なことだ。一突きすれば男は死んだ。そこら中に血を撒き散らして、俺の心を男の感情が蝕む。そして時がすぎるとそれは無くなる。そして俺はまた同じ様にこの国で生きていくこともできた。

そうしないのは何故かって?

分かるだろう?それが最期なんだ。俺はもう充分生きた。楽しんだ。幸せじゃなかったがそれこそ裕福な暮らしなんてしてないが、楽しんだ。今更命乞いなんてしない。これから考える事は来世で男にする復讐だ。嗚呼、なんて楽しいんだろう。


「殺すのか?」
「あァ、殺すさ」

冒頭と同じように男は言い、そして刀を抜いた。

「言い残す事はねェのかァ?」
「ないね」
「フン・・・来世でまた会いたいねェ、オマエと」




グット バイ




一突き。
そして死んでからまた一突き。
いい殺し方だね、まったく。





(080326)

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