「貴方だけ死ぬのは理不尽だから」

と、君は僕に確かにそう言った。だけど君がそう言ったのは僕の左胸に深く深くナイフか何かが突き刺さった後のことだったから本当かどうかは分からない。意識が朦朧としていたから。朦朧とした意識の中で僕はそれを聞いた。だけど可笑しな話だ。僕を殺したのは確かに君だった。数分前にいつもと変わらない笑顔で(あるいはいつもよりも素敵な笑顔で)僕に向かってこう言ったんだ。

「愛してる、だからサヨナラ」

そしてそのままの笑顔で君は僕の左胸にナイフか何かを突き立てた。勿論僕はそのまま後ろに倒れた。ドサリと大きな音がして地面に倒れると息が上手くできなくて喘ぎ声みたいな息が出てきた。辛うじて動く右手でナイフか何かが刺さったままの左胸をそっと触ってみたら傷口から血が出ているのが分かった。右手が真っ赤に濡れているのがまだ開かれたままの目で確認できた。

「・・・っはぁ・・・なん、で・・・」

途絶え途絶えの苦しい息遣いの中僕は君に聞いたんだ。そしたら君は笑って言った。

「愛してるからよ」

僕はわけがわからなかった。まさか今、此処で僕の人生が終わってしまうとは思いもしなかった。しかも病気で死ぬならまだしも愛しい彼女に殺されたのだ。あと何分僕の命はもつだろうか。いやあと何秒だろうか。僕がここに居られる残り少ない時間のうちに君に何か言いたいことはなかっただろうか。朦朧とした意識の中で必死に考えた。すると君が言ったんだ。

「貴方だけ死ぬのは理不尽だから」

と。何がどう理不尽なのか分からぬまま僕は閉じかけた目で君を見つめた。すると君はまた笑顔になって僕の左胸から突き刺さったままのナイフか何かを抜き取った。ズ・・・ズズ・・・とリアルな音が直接耳に届く。抜かれる瞬間は痛みも何も感じなかった。もう死ぬのか、僕はもう死ぬのか。それよりも君は何をしようとしているんだ。

「貴方だけ死ぬのは理不尽だわ。あまりにも」

・・・君はわけのわからないことをまた言う。すると君は抜き取ったナイフ(ここで僕の胸に突き刺さっていたのはナイフだったと核心したんだ)の先を自身の左胸に向けた。そして最高に素敵な笑顔を向けて言った。

「だから私も死ぬわ」

君が発した最後の言葉はあまりにも残酷でそして惨い程僕の左胸に深く突き刺さった。


(080506)

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