獅子が居た。
獅子は笑いそして吼える。 して、己を食わんとする。
「食ふなら食えよ。旨くなんぞ決してない」
勇ましく立つも武者震いをする己に向かい獅子は吼える。 何ゆえにして吼える?何ゆえに姿現わす?
己自身に問うてみたものの答えはなかった。
獅子吼うる、獅子吼うる
稲妻のやうな眼を
我に向け、獅子吼うる
空虚に叫ぶ武士捕らえ
止めることなく獅子吼うる
「見えぬのか?お前にも見えぬのか?」 師はそう問う。 嗚呼そうだ。見えないね。見たいとも思わない。 吐き捨て刀を振るう。
それが最も切なくてもどかしい。
見えるはずなのに切れない。 この獅子、己に何を求めん。
獅子吼うる、獅子吼うる
快挙に舞うやう、獅子吼うる
“踊れ、踊れ
それ、祭りじゃ祭りじゃ”
鼓笛にあわせ獅子吼うる
食ふか、食ふか、まだ食ふか
椿が咲く、獅子が裂く。 痛みは感じない。何ゆえに。 己の赤と、椿の赤が重なった。
飛び散った赤は獅子にかかるやいなか、 俺は朦朧とした意識の中獅子が笑うのを見た。
食った食った獅子食った
とうとう獅子は我食った
椿の紅、血の紅
飛び散る間際に獅子吼うる
分からぬ、分からぬ
獅子の行方は汝にも分からぬ

(獅子吼うる、獅子吼うる 椿の紅、血の紅)
(080811)
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