「朝はモーニングコーヒーに限るわね」

君はそう言ってコーヒーを淹れる。ブラックでも砂糖をたっぷり入れたのでもどっちでもおいしい。朝起きたばかりの俺の脳を覚ましてくれるならどっちでもいい。俺の脳を刺激するその香りと液体の濃さに脳が反応する。


「別れようか」
(もし君がYESと答えたなら君が淹れるコーヒーはもう飲めないのか)

君が淹れてくれたコーヒーを口に入れ少しずつ胃に収めていく。脳の隅々までいきわたっている毛細血管を流れる血液が一斉に回り始めたみたいに脳が覚めていくのが分かった。君からの返事を待っているのに、君は何も言わないで黙って俺の前の席に着いた。君の左手にもまたコーヒーの入ったマグカップが握られていた。左手はかすかに震えていた。

「冗談でしょ」

彼女の口から出た言葉は明らかに強がっていると分かった。顔が見事に歪んでいた。嗚呼、美しいよ、ハニー。その歪んだ顔、最高だ。ちょっとそのマグカップに入ったコーヒーに自分の顔を映してご覧よ。きっと気に入る。

俺は彼女の言葉を無視してコーヒーを一口。

「ねぇ!なんとか言いなさいよ!」

君はだんだんとヒステリックになっていく。今にも泣きそうな顔をして、左手に握られていたマグカップを離してバンっとテーブルを叩き勢いよく立ち上がった。


(はは、最高。モーニングコーヒーも君の顔も)


俺は気にもせずにコーヒーを一口。そしてまた、一口。

「もういいわ、さようなら」
(答えはYESか。俺はもう二度とモーニングコーヒーを飲めないのか)

彼女は部屋を出て行こうとする。
俺はマグカップに淹れられたコーヒーをすべて飲み干して彼女に言うんだ。

「待って!!」

彼女は待ってましたとばかりにこちらを振り向く。ああ、最高。その自惚れた顔がすごく素敵だよハニー。でもちょっと馬鹿だったかな?いや、まだ脳が覚めてないのかな?・・・おかしいな。確かに君はさっきモーニングコーヒーを飲んでいた。

「何よ」

君の口から発せられた言葉には期待が混じっている。期待のまなざしが俺に向けられる。やっぱり君は最高に素敵だ。


「コーヒーを淹れてくれないかい?君が淹れるモーニングコーヒーはこれが最後だからね」





《素敵なハニー、

     ご馳走様!!》


(おいしかったよ。ものすごく)






(080412)

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